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  • Fumiya Ikegami

「空と東京タワーの隣の隣」


晩秋の下北沢。

旧南口横の雑居ビル、白く塗られた20坪程度の薄暗い空間。

所狭しと並べられた、ギシギシ唸る折りたたみ椅子に腰を掛けて観たものは、地方出身者の心の機微、哀愁。不器用な父の愛に包まれて育った一人の娘の、もどかしくも温かい人生の断片。

女優の竹本みきさんにお誘い頂いて、彼女出演のマコンドープロデュース「空と東京タワーの隣の隣」を観た。

職人の父の口癖は、「東京タワーの隣の隣の....は俺が作った......」

そんな言葉を聞き育った娘はやがてOLとして上京して、素敵な男性に出会い、父をほおって置けない娘の葛藤の狭間で揺れ、迷いながらも、人生を紡いてゆく、、、、という物語。

よかった、とてもよかった。

あまり広くない空間の演出もすごく素敵だった。出演者の表情、心がよく感じられたし、物語も明快でわかりやすく、小道具などが見受けられない「役者のみ」の演出が、まるで讃岐うどんを食べるようというか、素材の味を感じられるというか、とにかくよかった。

前なにかで「ブルーカラーとホワイトカラーの狭間」の話を聞いた。

地方、特に田舎出身者はブルーカラー(いわゆる肉体労働者)の家庭が多く、高校、大学へと進学することを鼻から考えず、子もまた似たような職種に就くという。

僕も、舞台の娘と同じ片親育ち。うちの場合は母だが、田舎の家庭で大学へ行くのも半分。ましてや片親となるともっと少ない。僕の周りも高校を卒業して地元の工場などで働く人がほとんどだ。

それが悪いとは思わない。幸せの形なんか人それぞれだから。

ただ、田舎の片親が子供の進学と上京を許し、見送る気持ちは驚嘆に値するだろう。

見知らぬ土地へ送り出す親の、胸の締め付けられるような想い。

そしてその気持ちはいわば当事者、子と親にしかわからない。

だから僕はこの話を、自分に置き換えて観てしまった。感じ、自分の人生となぞらえ、感動を禁じ得なかった。

舞台は面白い。

たった1時間半で、人の気持ちを掻き回し、今まで感じたこともないような生温かいものを胸中に与え、そして終演すると舞台には何も残らない。ただ心が温かい。

舞台は刹那なんだ。

ビデオやDVDなんかとは違う、「生」の芸術なんだ。

#空と東京タワーの隣の隣 #観劇

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